
花粉などのアレルギーの原因物質が鼻に入ると、鼻の粘膜ではアレルギー症状の原因物質であるヒスタミンが作られて体内に放出されます。
このヒスタミンが同じく鼻の粘膜にある「H1受容体」という部分と結合すると、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状を発現します。
「ヒスタミン」と「H1受容体」との関係は、アレルギー症状を引き起こすスイッチとなる、「鍵」と「鍵穴」という関係になっています。
この鍵穴をヒスタミンが結合する前にふさいでしまい、ヒスタミンが放出されても、鍵穴と結合できなくすることで、アレルギー症状の発現を抑えるのが抗ヒスタミン薬です。

鈍脳とは、抗ヒスタミン薬の服用によって起こる、集中力・判断力・作業能率が低下した状態をいいます。この鈍脳の状態は、患者さんが自覚できているとは限りません。自分では気づかないまま集中力や判断力・作業効率が低下してしまうこともよくあります。
近年、医療用では、鈍脳を起こしにくいタイプの薬が数多く処方されていますが、市販薬(OTC医薬品)では、まだまだ鈍脳を起こしやすいタイプの薬が数多く使われているのが実態です。
鈍脳になると日常生活のさまざまな局面、例えば自動車の運転や緻密な機械操作などで危険に遭遇する可能性も高くなるので、抗ヒスタミン薬の服用には細心の注意が必要となります。
ところが、その危険性についてはまだあまりよく知られていないのが現状です。
抗ヒスタミン薬を服用して自動車の運転や緻密な機械操作などをすると、場合によっては、非常に危険な状態に陥る可能性があります。
抗ヒスタミン薬の中には、これを一回量服用すると、ウィスキーシングル3杯分(約90mL)を飲んだ時とほぼ同程度の鈍脳状態になるものもあります。
多くの抗ヒスタミン薬は、使用上の注意において、乗物又は機械類の運転操作をしないこととされておりますので、服用後は運転操作等を行わないでください。
出典:Tagawa M, Yanai K et al:Br J Clin Pharmacol 53:296, 2002、Tagawa M, Yanai K et al:Jpn J Pharmacol 83:253, 2000
鈍脳を起こすと、大切な試験の成績にも影響が出るリスクも想定されます。
ある調査によると、試験中にアレルギー性鼻炎の症状のあった学生1001人を対象に、アレルギー性鼻炎の症状と鎮静性抗ヒスタミン薬による成績への影響を調査した結果、アレルギー性鼻炎の症状による成績低下が全体では40%だったのに対して、試験中に鎮静性抗ヒスタミン薬を服用した群(84人)では、成績低下が70%にも達したと報告されています※。
出典:Walker S et al : J Allergy Clin Immunol 120 (2) : 381, 2007より
抗ヒスタミン薬が、鼻の粘膜上にある「H1受容体」をブロックすることで、くしゃみや鼻水といったアレルギー症状が緩和される一方で、一部の抗ヒスタミン薬は脳の中にも移行し、脳内にある「H1受容体」もブロックしてしまいます。
しかし、脳内でのヒスタミンの役割は、アレルギー症状の発現とは無関係で、集中力・判断力・作業能率や覚醒の維持に関与していることがわかっています。そこに抗ヒスタミン薬が入ると、脳内のヒスタミンの働きも妨げられてしまうのです。
その結果、ヒスタミンが脳の中でも働くことができずに、ヒトの活動性が抑えられる、つまり鈍脳を起こす原因となります。抗ヒスタミン薬による眠気もこれと同様のメカニズムで起こります。





抗ヒスタミン薬には第1世代と第2世代の2つの世代があります。第1世代抗ヒスタミン薬に比べて、より鈍脳を起こしにくいようにということで開発されたのが第2世代抗ヒスタミン薬です。
しかし、第2世代抗ヒスタミン薬の中でも眠気や鈍脳の起こりやすさには差がありました。これは抗ヒスタミン薬の種類によって脳内への入りやすさに差があり、その結果H1受容体をブロックする程度に違いがあるためです。服用により脳内の「H1受容体」が50%以上ブロックされるものが鎮静性タイプ、20%~50%のものが軽度鎮静性タイプ、20%以下のものが非鎮静性タイプに分けられます。
本来、ヒスタミンは脳内で覚醒や興奮などをもたらす働きを持っています。鎮静性とは、このはたらきを抑えてしまう作用のことで、具体的な症状としては、眠気や集中力・判断力が低下する鈍脳を起こす作用です。非鎮静性の抗ヒスタミン薬の成分は脳に入りにくいため、服用しても脳内のヒスタミンとH1受容体の結合を妨げることがほとんどありませんので、鈍脳状態が現れにくく現在のアレルギー治療の主力となっています。
一方、鼻などアレルギー反応を起こしている部位では、ヒスタミンとH1受容体の結合を阻害する作用が発揮されますので、抗アレルギー効果が期待できます。

2010年以前に花粉症と自覚、もしくは診断された人1,200人に、「鈍脳の実態」に関するアンケートを行ったところ、クスリを飲んで眠くなったり集中力がなくなったりしたことがあると回答した人は52.3%に達しています。
その背景には、眠くなっても仕方がないという諦めと同時に、眠気が強く出る薬は効果も高いという思いがあるようです。
また、効き目が強い薬は眠くなる(または、眠気の強い薬は効果が高い)と思っている人は67.1%にも達しています。
しかし、これは抗ヒスタミン薬の作用についての誤解であり、アレルギー症状に対する「効果」と「眠気」の発現とは、抗ヒスタミン薬の作用部位が異なるため関連性はありません。
眠気は薬の中枢抑制作用により引き起こされますが、アレルギーの症状を抑制するときは身体の末梢部分に作用しています。そのため、両者には相関性が全くないことがわかっています。
このような点からも、花粉症対策には、効果とQOLの観点から、まず鈍脳を起こしにくい薬も検討するべきだといえるでしょう。




























